2018年6月11日月曜日

指定管理制度から直営に戻した小郡市の例

指定管理制を導入したもののわずか3年で直営(嘱託制度)に戻した福岡県小郡市の例を見てみます。(小郡市の人口は2018年5月1日時点で59,516 人)
この図書館は「読書のまちづくり日本一」をめざすという当時の市長マニフェストに基づき、教育現場と連携して子供の読書を増やすことに取り組みました。

  指定管理から直営復活 小郡市立図書館(福岡県)各地から視察相次ぐ
 
~「西日本新聞」2017年59日付より~

 この記事は以前はインターネット上にありましたが、西日本新聞のサイトから削除されてしまい現在はネット上で読むことはできません。

 今年11月、開館30周年を迎える小郡市立図書館(新木秀典館長)に視察が相次いでいる。いったんは指定管理者制度を導入したが、3年で市の直営に戻した珍しい公共図書館だからだ。近年では、学校給食との連携など、独自の子どもの読書活動推進策も注目されている。さまざまな試行錯誤を重ねながら、あるべき公共図書館像を目指す姿を追った。
 「絵本に出てきたタケノコだ!」。4月下旬、市内の市立全8小学校と5中学校の給食に「ものがたりレシピ」が登場した。メニューは、給食前の授業で読み聞かせがあった絵本「ふしぎなたけのこ」にちなんだ、たけのこご飯。東野小1年の秋山結愛さん(6)は「絵本のタケノコがおいしそうで、ちょうど食べたくなっていた。おかわりしたい」と声を弾ませた。
 ものがたりレシピは、「子どもたちに読書を身近に感じてほしい」と2011年度に始まった年1回のイベント。市立図書館が中心となって教務課や学校給食課と協力し、約3カ月かけて本の選定やメニューづくりなどを進めてきた。
 企画を担当した同図書館司書の田実亜依子さん(35)は「他の課との連携なしにはできない取り組みで、直営だからやりとりがスムーズにできた」と、「直営」である利点を語る。
   ◇      ◇

  市立図書館は1987年11月に市の直営で開館した。2006年4月、行財政改革の一環として指定管理者制度を導入し市が出資する公社に運営を委ねたが、3年後、「迅速な意思決定ができない」などとして再び市の直営に戻された。
 指定管理者時代の08年に館長となり、直営に戻った後も16年3月まで館長を務めた永利和則・福岡女子短大特任教授は「民間と直営両方の経験から、直営だからこそできる権限の大きさを実感した」と語る。
 例えば直営の場合、館長は市の課長として他の課と対等な立場で協議できるが、指定管理者の場合は担当課に提言し、市が動くのを待つしかないという。永利さんは「市の政策立案に直接関われる権限の差は大きい」と話す。
 小郡市立図書館には今、視察が相次ぐ。佐賀県武雄市が市立図書館の指定管理者にレンタルソフト店最大手「TSUTAYA」(当時)の運営会社を決定した12年度には年40件に上り、その後も北海道や四国など各地から10~20件程度の視察が続いているという。
 武雄市を第1号に全国に広がった「ツタヤ図書館」はカフェ併設などで人気を集める一方で、不適切な選書などが指摘された。「あらためて文化行政の中心としての公共図書館の運営に、多くの自治体が関心を持っている証拠。小郡の試行錯誤を参考にしたいということではないか」と関係者は推測する。
   ◇      ◇
 人口約6万人だが、書店が2店しかない小郡市。活字難民を生みかねない現状を打破しようと、先頭に立ってきたのが図書館だった。
 開館と同年に始まった移動図書館は、当初の12カ所から病院や公園など24カ所に拡大。03年度には障害などで来館が困難な人への宅配サービスを始めた。小中学校や高校、専門学校の蔵書を市立図書館のコンピューターで一元管理することで1枚の利用カードがあればどこでも本を借りられるシステムは全国的にも珍しいという。
 10カ月児の健診の際に保護者に絵本を渡して読み聞かせのアドバイスをする「ブックスタート」では、大学と連携してその後の追跡調査を行い、母子支援の研究につなげている。
 一方で、直営に戻して以降も経費を抑えるため、市職員は館長ら3人のみで、司書13人は嘱託職員が担っている。「若い人の利用が少ないので、もっと専門書を充実させて」(利用者の男性)など、図書館への注文が尽きることはない。
 図書館でも、貧困家庭を中心にした学習支援を模索している。「市民のニーズを丹念に拾って、本の貸し出しにとどまらない役割を担っていきたい」と、新たな意欲を見せている。


ネットで検索すると、
九州地区の経験から 〜福岡県内と小郡市を中心に〜
  永利  和則(小郡市立図書館)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/toshokankai/66/1/66_KJ00009327845/_pdf
という論文が見つかりました。
見て行くと、福岡県内の図書館の管理蓮営体制には次の4つがあるとあります。
① 委託司書制度 ② 財団法人の管理委託制度 ③ 業務委託制度 ④ 指定管理者制度
小郡市での管理運営体制の変遷は次のように進んだそうです。

1 直営での業務委託  1987(昭和62)年 〜2001(平成13)年
2 財団法人への管理委託 2002(平成14)年〜2005(平成17)年
3 指定管理者制度 2006(平成18)年〜2008(平成20)年
4 直営での嘱託制度 2009(平成21)年〜

直営 (嘱託制度)に戻った後の状態についてはこう書かれています。

 2009年4月から直営での運営・管理となり,図書館は,再度,教育委員会の課として位置づけられた。しかし,条例は元に戻らず,休館日・開館時間も指定管理者の時と変わっていない。
 専任館長の体制に移行したが,正規職員は3名のままである。 公社の嘱託職員のほとんどが市の嘱託職員に採用されたが,給与は削減されている。待遇面では,育休制度が導入され,それを利用した嘱託職員がいる。
 直営になったので,市長マニフェストの実現に向けての関係各課との連携を密にとることができるようになり,「読書のまちづくり日本一」を具現化するさまざまな取り組みを進めている。(
以下略)


直営に戻した理由

 2011年7月に「第1次小郡市行政改革行動計画 (平成19〜23年度)」の総括を行った。
効果として,委託料及び嘱託職員人件費が3,530万円削減できたが,問題点として,迅速な意思決定や対応面からも非効率があるとした。この総括では触れていないが、正規職員は6名から3名に削減された。
 この報告書に書かれていることは小郡市の公式見解であり、図書館がいろいろな部署と連携しながら行政課題を解決していくためには、指定管理者制度が小郡市にはなじまないと事務局の企画課が判断したことは大きなことである。
 2013年9月発行の『市政』)には,「迅速な意志決定が難しいため、指定管理者から
直営に移行。それが機動的な施策の実施につながりました」という平安正知小郡市長
の言葉が掲載されているので、一読していただきたい。


 この町では西日本新聞の記事にも書かれたように、様々な取組みが行なわれています。 

生涯学習を支える公共図書館としての視点

 憲法第25条は,「健康で文化的な最低限の生活を営む権利」を規定している。このことは、憲法第26条の「教育を受ける権利」と深く関わっている。国の調査では、生活保護を受けている家庭の高校進学率は、一般家庭のそれよりも10ポイント近く低い89.5%になっていることが報告されていて、学力と収入の相関、貧困の負の連鎖が問題となっている。もはや学力の保証は、国全体の重要政策課題のひとつになっているといえる。
 そのような中で図書館の果たすべき役割は、読書によって「生きる力」の育成を図り、学力の保障、向上につなげていくことではないかと考える
(以下略)

 最期のところも重いです。

  国立青少年教育機構が2013年2月にまとめた「子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究報告書」では,子どもの頃に読書活動が多い成人ほど「未来志向」「社会性 」「自己肯定」「意欲・関心」「文化的作法・教養」「市民性」のすべてにおいて,高い数値を示している
 そして,このような人たちが,あすの地域社会を担っていく市民となっていくのである。
  図書館職員は,図書館法第3条の「図書館奉仕」が図書館職員自身の個人的な思いではなく,れっきとした法に基づく行政サービスであることを意識し,図書館法第17条の「無料の原則」により,公平・公正に万民ヘサービスを提供していくことで,未来の市民を育むように努めなければならない。



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